『大きくなったら何になりたい?』
一人のアフリカの少女が大きく写ったそのポスターを
小学校の廊下で見たのは、8歳の時だった。
当時の私がなりたかったもの。
舞妓さん。あるいは、花火師。
同じ年程の彼女の夢は、
『生きていたい』
いつかアフリカに行って、何かの役に立ちたい。
そう思った瞬間だった。
数年前に読んだ黒柳徹子さんの本にそのエピソードが紹介されていた。
それは、UNICEFが作ったポスターで、
モデルの少女は当時飢餓が激しかったエチオピア。
ポスターの数年後、少女に再会した徹子さんが再び夢を聞いた。
「医者になりたい。」
生きていた彼女は、新しい夢を持っていた。
この国を変えてやる。
そう思ってやってきた。
でも、変えられたのは自分だった。
人はみんな違う。
宗教も、食事も、好きな音楽も、考え方も、優先事項も。
この国の人たちは、本当に違った。
だからこそ、イライラもした。
絶句もしたし、絶叫もした。
ケンカだってした。
そういうものだ。
これがブルキナだ。
これがアフリカだ。
まず、そういう諦めを覚えた。
いいじゃないか、ブルキナだもん。
やっぱりそうだよね、ブルキナだもん。
そうこなくっちゃ、ブルキナだもん。
いつしか違いを受け入れられた。
そして、好きになった。
日本にいた時の自分よりも、寛容になり、忍耐強くなり、
柔軟になり、笑えるようになった。
『豊かさ』とは何か。
『しあわせ』とは何か。
それを教えてくれたのは、決して『ゆたか』ではないこの国の人たち。
お金はないけれど、大切なものを大切にしているこの国の人たち。
与えるよりも与えられることが多く
助けるよりも助けられることが多く
私は、人の温かさを知りました。
本当に何もできなくて、ここに来た意味を何度も考えた。
自分の無力さを、何度も思い知らされた。
日本に帰りたくなったこともあった。
不便じゃないって言うと、それは事実ではないけれど、
それでも
私はここに来られて
ここでたくさんの人と出会えて
しあわせでした。
『生とは天の我を労するなり。死とは天のすなわち我を安んずるなり。(高杉晋作)』
これからも、自分の使命を探し続け、自分に出来る事を実行し続けたい。
機会を与えてくれたみなさん、
応援してくれた友達、
一緒にがんばった隊員、
出会ったブルキナの人たち、
支えてくれた家族
全ての皆様にありがとう。
近所の子どもに、将来の夢を聞いてみた。
警察官
学校の先生
医者
「生きていたい」と答えた子どもは、
一人もいなかった。
この国が、世界が、いつも、
いつまでも希望に溢れますように。
10年先も、100年先も、
愛と笑顔に溢れていますように。
追伸。
3月21日、任期を終え、無事に日本に帰国しました。
町の人たちと
職場の人たちと
女性の家の女性達と
涙のお別れをした。
水道代と電気代、「前日の夕方に来い」って言うから行ったのに、
「今日は払えないよ。明日来い。」って言うから。
また大喧嘩をした。
冷蔵庫も空にして、電源を抜いた。
服も全部子どもにあげた。
それなのに。
「ブルキナ全土でデモの危険あり。移動禁止」令が出た。
よって、1日居残り。
最後までブルキナらしい・・・。
運動会が雨で延期になった気分。
翌日会う人毎に、
「あれ、まだいたの?」って聞かれて、ちょっと気まずい。
でも、もう一度お別れできた。
お別れ出来なかった人にも、お別れできた。
喧嘩した電気屋のおっさんは別れを惜しんでくれ、
水道局のおっさんには一転、プロポーズされた。
(子どもは絶対に5人以上らしい。)
今夜は何にもない部屋で、何もせずに、思い出をめくって過ごそう。
何かを始めれば、それが終わる時が必ずくる。
明日の朝、約2年を過ごしたこの町を去る。
「ここは町じゃなくて、大きな村よ。」
同僚が表現したとおり、それなりに大きいけれど、何もない町。
いつかの日曜日の昼下がり。
日陰でお茶を飲んでいるとき、一人の男性に言われた。
「この町は何もないだろ?お前の国や、首都みたいにお店もレストランもないし。」
「そうだけど、星が見えるし、みんなとしゃべってるのは楽しいよ。
私は首都より好きだよ。」
それは本気だった。でも、彼は言った。
「それは一時的だから言えるんだ。いつかお前は日本に帰る。
でも、俺達はずっとこのままだ。」
私は確かにガイジンで、彼らの生活のほんの一時に入り込んだに過ぎない。
いつか帰るんだろ、自分の場所に。
その言葉が、今でも心に残っている。
確かにそうだ。
だから、水が出なくても、停電しても、
レストランのメニューが4つしかなくても、それを1時間待つことも、
シャンプーの泡が土色に染まっても、
水道局や郵便局のオッサンに腹が立っても、
「まいっか。日本に帰るし。」と思って我慢してこられた。
だけど、この町のみんなに言いたい。
ここで過ごした時間は本当に楽しかった、と。
私は、他のどの町でもなく、ここに来られてよかった、と。
理不尽だったり、突然家にやってきたり、他力本願だったり、
働かなかったり、欲しがりで嫉妬深くて、
そんなブルキナべにイライラしもした。
でも、私を助けてくれたのも、やっぱり彼らだった。
話を聞いてくれて、何度も説明してくれて、
私の拙いフランス語を理解しようとしてくれて、励ましてくれて。
ナニジンか分からんけど、「ミカー」と声をかけてくれる人たち。
10kmの山道を越えてお別れに来てくれる村の人たち。
例えそれが職場からであれ、首都からであれ、1ヵ月ものバカンス後であれ、
「おかえり。」って迎えてくれる人たち。
私は、この町のみんなに出逢えてよかった、と。
6年間住んでいた東京のアパートは、隣人の名前も顔も知らなかった。
でも、この町の人たちは、お互いをよく知り、助け合って生きている。
人は一人では決して生きていけないから。
一晩で5回吐いた日。
失神してトイレで倒れた日。
5ヵ月も続いた断水。
ニンニクと玉ねぎしかない季節。
泥棒に遭った日。
バイクでこけた日。
ネズミと戦った日。
トイレの穴からコウモリが飛び出してきた日。
不便ではないか、と問われれば決して便利とは言えない。
それでも、ここに暮らせて、この町の人達に愛されて、
私はとてもしあわせだった。
米は育っているだろうか?
ぬいぐるみは売れているだろうか?
子ども達はサッカーをしているだろうか?
大繁盛のレストランが出来ているだろうか?
全世帯に水道が普及しているだろうか?
いつかまた、戻ってくることができるだろうか?
それは分からないけれど、一つだけ分かることがある。
例え来週でも、来年でも、10年後でも。
この町の人たちは、きっと私を覚えていてくれる。
そして、きっと私を出迎えてくれる。
「ミカ、おかえり。」と。
去年のリベンジを固く誓っていたけれど、自転車レースはない『女性の日』。
相変わらずの「予定より平気で1時間遅れ」でイベントは始まった。
まずは、ウンデの各女性グループの行進。
お揃いの衣装で、中には自分たちの作っている作物を持っている人も。
なぜか、たった一人ではあるけれど、カツラを被った男性もいた。
ちゃんとスカートをはき、何食わぬ顔で行進する彼女(彼)に、会場は爆笑。
人垣がフィールドをかたどる会場で、次は女性の日メインイベントのサッカー。
男性チーム(割と、いや、かなりご年配)VS女性チーム。
私は、去年この試合で接触プレーの末、2回転倒した。
その相手は、この人。
ウンデの市長。
(通称、阿部寛)
とにかくイイ体をしていて、
フィジカル強すぎ。
今年は負けません。
16(女)VS11人(男)で試合開始。
と思いきや、笛がない。
用意するでしょー、普通。
警備にあたっている警察の誰かの笛を拝借し、
空回りなホイッスルで試合開始。
去年も紹介したとおり、「女性チームが勝つ」ことが最初から決まっている
公然八百長試合。
よって、審判は女性には入学式初日の先生みたいに甘く、男性には厳しい。
例えば、ゴールキーパー。
女性ゴールを守る4人。
その体格を十分に生かした鉄壁の守備には、隙がない。
もちろん、それ以外の女性が手を使って止めても許される。
男性の場合、直ちにPKとなる。
例えば、一応警察によって守られているギャラリー。
みんな女性チームの応援。
「サポーターは12人目のプレーヤー」って言うけれど、ギャラリー3千人が17人目のプレーヤー。
ボールが来れば、女性に渡す。
あるいは、突然フィールドに乱入し、自分で男性ゴールに蹴りいれる。
例えば、国際ルール。
興奮した女性は手でボールをキャッチし、持ったまま走り、ゴールに投げ入れる。
ラグビーも、バスケも、ハンドボールも、その起源はサッカーに違いない。
結局、試合は5-1で(投げゴールが有効であれば)女性チームの連覇。
私は、というと。
「記録はブルキナべに、記憶は日本人女性に。」
試合開始5分。
名古屋のシャチホコばりのヘッドスライディングが決まる。
接触した相手は、やっぱり市長だった。
見て、この写真!
あー、やっぱりアゴ出てますか・・・。
じゃなくて、左ほほに無数の擦り傷。
試合後のハグ&キスによる他選手の汗と
観客のお偉いさん方の労いの「痛かったでしょ?頑張ったねー」なでなでで、痛い!
ま、これもウンデのお土産。
日本まで残ってないことを祈るけれど、大事に持って帰りましょう。
ウンデのイベントにはことごとく参加してきたけれど、『女性の日』は一番好き。
町中の人が集まって、みんなが女性を応援して。
私にとって最後のイベントがこれで、本当に良かった。
日中40℃を超す酷暑。
土&コンクリート+トタン屋根の家には、日中の熱がこもる。
ベットは砂風呂みたいに、いつまでもじわじわ温かい。
2時間置きに、暑さと汗と水分切れで目が覚める。
高さの調整が出来ない、ちょっとおバカな扇風機も熱風しか送らない。
夜は眠れないから、涼しい朝方、テラスで寝る。
風が心地良い。
うとうとしてると、
「ミーカ!」
子どもが入ってくる。
開ければ閉まらず、閉めれば開かず、の壊れた門。
開けっ放しのその門から。
追い出して、またうとうと。
異変に気付いて横を見れば、違う子どもが隣に寝ている。
おいー!寝かせてチョーダイ!
タッタタッタ・・・
今度は何だ!?
ヤギまで私の眠りの邪魔をする。